写真で笑顔を強要するのは絶対ダメ

プロカメラマンの阿部拓歩です。人を撮っていると思い通りに動いてくれない時がある。笑顔になってくれない時がある。特に子供の撮影は大人より断然難しい。

思い通りにならない被写体

「アゴを引いて。」

「こっちを向いて。」

「ここに立って。動かないで」

こんな風に指示を出す。でも思い通りにはいかない。動き回るし、こっち向かないし、言う事聞かない。

「もっと笑顔で」

言えば言うほど思い通りにはならない。笑顔なんてならない。

そんな時どうすれば良いのだろうか?

どうやったら笑顔になってくれるのか。それが問題だ。

カメラマンの発する言葉

「動かないで」という指示をカメラマンが出す。

あなたが動きたいとしよう。動きまわって遊びたいとしよう。そんな時に動かないでって言われたらどんな気持ちになるだろうか。いい気持ちにはならないだろう。

「もっと笑顔で」という言葉をカメラマンが発する。

被写体が自分の笑顔に自信があったなら、「もっと笑顔で」という言葉は単なるリクエストに過ぎない。お安い御用とばかりに笑顔をくれるだろう。けれど、自分の笑顔に自信がない人の場合は苦痛でしかない。自分がもっていない「笑顔」をもっと寄こせって言われるのだから苦痛でしかない。あなたはどうだろうか?

「もっと笑顔で」って言われたらどう感じるだろうか。否定されたと感じはしないだろうか?

否定は要らない。笑顔が欲しいなら基本的に肯定だけを使う。

人は自分の意志をもつ生き物。

表面上の行動を制限することはできる。動くなと言ってそこへ座らせることはできる。けれど本当の意味で人をコントロールすることはできない。心をコントロールすることは誰にもできやしない。

自分で写真用の笑顔を作ることが出来る人。でも、その安い笑顔が写った写真を見ているとカメラマンが被写体をコントロールして無理やり笑顔にしたのか、どうか、すぐ分かる。それは心からの笑顔ではないから。写真には、被写体とカメラマンの関係がよく写る。

人は機械ではないのだから、あなたがコントロールすることは断じてできないのであります。人にどう向き合うか?それが人物写真です。

カメラマンの「道」

そうは言っても、、、、笑顔で撮らなきゃいけない。そんな時ってあります。例えば、初めて会う人で基本無愛想で撮影時間はたった5分。でも笑顔の写真が欲しいっていうリクエストを頂くこともある。その場合、僕なら、、、うーん、難しいけど男なら下ネタ。年配の女性なら旦那の愚痴とかになりますかね(笑)

そんな厳しい状況でどれだけ本当の笑顔を引き出せるのか。難しいけれどそれがカメラマンの「道」であります。そして外してはいけない大前提が「そもそも人はコントロールできない」という事であります。そしてもう一つヒントとなる前提があります。

痛みを避けて快楽を得る

全ての生き物は痛みを避けて快楽を得ようとしている。例外はない。人によって痛みの種類が違ったりするけれど、犬も猫も人もみんな痛みを避けようとしている。その人にとっての痛みとなる言葉を出せば表情は曇る。その人にとっての快楽となる言葉をプレゼントすれば表情は明るくなる。難しいことは何もない。

撮られるのが好きな人は「イイね、イイね」って言っときゃ問題ない。撮られることが快楽だから、何もしなくていい。

男は下ネタが大好き。写真に言葉は写らないから、なるべくおバカな話が良い。

撮られることが苦手(カメラを向けられてる時点で痛みが伴う)人はほぐしてあげる。撮られている事を忘れさせてあげると笑顔になったりする。

子供になればなるほど単純な事が良い。これぐらいの子供なら「しりとり」してワザと間違えるとかすれば効果抜群。子供でも突っ込めるようなネタにしてあげよう。

 

笑顔でとは言わない。腕を組んでとも言わない。カメラを忘れるぐらいまで楽しい話をするだけ。焦らず、慌てず話していれば必ず自然な笑顔がでてくるから。人はずっと緊張していられない。意識がカメラから外れる瞬間は必ずある。

指示はしない。誘導するだけ。

子供の喜ぶ事をしてあげる。大人の喜ぶことをしてあげる。そうやってプラスのキャッチボールをします。受け取りやすいボールを投げます。気持ちのよい世界にお連れするのです。指示はしない。誘導するだけ。あっち向いて欲しいときはあっちにあなたの欲しいものがありますよって教えて上げるだけ。あっち向いてとは基本的に言いません。笑顔はムリヤリさせるものではない。あなたの人間性によって出てくるもの。あなたが引き出すものです。

人物写真の面白さ

コミュニケーションのボールを投げた時に反応が必ずあります。反応しないという反応もあります。人物写真はそれを愉しむ行為です。どんな表情を見せてくれるのか?どんな予想外の動きが出てくるのか?心と心が触れ合うのを愉しむのです。あなたの投げたボールに対して相手がどんな風に反応するか、、、それを愉しむのです。その意味では笑顔だけが答えではない。

グループ写真は難しい。子供が一箇所に集まってこっちをみるとか、マジ至難の業。全員興味のある対象が違うし、好きなことも違う。そんな中で視線を集めるのはホントに難しい。ま、でもカメラ目線じゃなくてもいいからね。

人はあなたの思い通りには動いてくれない。コントロールすることはできない。だからこそ一瞬の表情を捉えることは奇跡であり、被写体の内面との偶然の出会いであります。いろんな側面をもつ人間の一つの瞬間に出会うこと。ほんの一瞬を見逃さずに捉えること。それが出来るかどうかは置いといて、それを愉しむ。

人を撮るとはそういった行為ではないかと思います。だから「笑顔で」なんて命令しちゃダメだよ。

 

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